数年前に会った病弱な女の子のこと
「ねえ、あなたはダレ?」
首を傾げながらその子は聞いた
これは、私がご主人に会う前の
ちょっとした
出会いと別れの物語
「久しぶり、空木。」
画面に映る小さな十字架に手を合わせる
「来るの遅いよリン」
懐かしい声が聞こえた気がする
「リン、どうかした?」
顔をあげてみると
ご主人が心配そうにこちらを見ていた
「ご主人に会う前に会った子のこと思い出していました」
興味津々なご主人に急かされて
口を開く
「あれは、数年前に興味本位で行った廃れた海街でのことでした」
もう一度、あなたのことを思い出すよ
何度目かはもう忘れてしまったけど
「その子の名前は空木っていうんです」
私は目を閉じて記憶の糸を手繰り寄せた